ありがとうポストで用いられる「小川和紙」には、 職人のこだわりや情熱、さまざまな想いが込められています。 和紙作りに人生を捧げた親と子のストーリーをお届けします。

小川和紙の伝統をつなぐ
職人たちのストーリー

紙すきの村~久保昌太郎和紙工房~
有限会社 久保製紙
4代目 久保晴夫さん
5代目 久保孝正さん

インターネットでは伝わらない「手触り」と「人の心」を伝えたい。伝統産業をITがおぎなう新たな試み

お客さんが納得してこそ、一人前

 職人の仕事は一生修業だと言われる。一人前として認められるにも10年以上の歳月がかかることが当たり前のようにある世界だ。45年間続けてきた晴夫さんは、職人という生き方をどう考えているだろう。

「その道10年ってよく言うでしょう。だけど、職人が自分でそれを言うのは、俺の仕事はそんなに簡単にはできねんだぞ、と自慢している感じがちょっと見えて、あんまり自分で言うもんじゃないよね。10年というのはすごい時間ですよ。いくらなんでもそんなにはかかりません。ある程度、紙を漉きこなすには2、3年あればできると思う。ただし、うちみたいに何十種類という紙を自在に漉きわけるとなると、長年の経験がいる。私だって年中、間違っているくらいですから。お客さんの要望に応えて、なんとか使ってもらえる紙ができることが一人前なんだろうね。これは時間だけじゃないですよ。30年40年やったって、お客さんの期待に応えられなければ一人前とは言えませんから。どんな仕事でもそうだと思うんですけど、大勢の人に必要とされる人間になることだと思う。職人が必要とされるということは、技術が必要とされているわけだから、職人としては、やっぱり技術を磨くことだよね」

 一方、孝正さんはちょうど10年目。さすがに一人前といっていい年数だが。

「難しいですよね。自分では一人前だと思っていても、鼻で笑われているようなこともあるし、半人前だと言いながら恐ろしく上手い人もいる。肩書きがついて、社会的評価が得られたり、お客さんに褒められたりしても恥ずかしくなくなったら一人前なのかな、という気がしますね。お客さんの注文があるから作っているわけで、用途に対して過不足なく作ることが重要だと思ってます。だから、出来上がった商品に対して作り手の顔を想像してほしくないという気持ちがある。紙の良し悪しを決めるのは最終的には使う人です。私がこだわりぬいて良いと思ったとしても、お客さんがどう思うかはまた別の話ですから」

 我を張って職人のこだわりを主張するのではなく、親子そろって、お客の要望に誠実に答えることを職人としてのモットーにしている。これは、庶民の紙として発達してきた小川和紙の気風なのかもしれない。本当の意味で職人らしい文化だ。しかし、それが小川和紙の弱いところでもある。今後は、デザイナーやアーティストとコラボレーションし、紙漉き職人として作家性を打ち出していくことも大切だと晴夫さんは話した。

「私の時代は、職人が職人でいられた。自分の力が10だとすると、その8割を製造に傾注できたんです。それが幸せだったなって今は思いますね。息子の時代になると、問屋さんが機能しなくなってきていますから営業もやらなくてはいけなくて、6対4か、五分五分か、製造と販売を同じくらいの力でやらなければいけない。これもまた時代ですよね。今までやってきたことをそのままやっていても続かなくなる。職人の力だけではどうしても限界がありますから、そこに新しい何かを付け加えないと。時代が変わったわけだから、新しい提案をしていくことも大事ですよね」

「伝統産業×IT」の新たな試み

 新しい提案という意味では、『ありがとうポスト』は「伝統産業×IT」ともいえる新たな試みだ。晴夫さんの若い頃にはなかったものであり、孝正さんの世代にとっては、当たり前にあるもの。それぞれどのように捉えているだろう。まずはITが身近な孝正さんに聞いた。

「私がYoutubeを見て余所の産地の職人さんの紙漉きを見て勉強したり、全国各地の職人さんとFacebookでつながって情報を共有したり、一見、相反するもののようで、実は意外と親和性が高いのではないかと思います。以前、文化財の修復現場に行ったことがあるんですが、現場の職人さんがiPadで修復前の写真と見比べながら作業をしていた。ある意味、伝統産業に欠けていた部分を補っているわけですよね。今回の『ありがとうポスト』がきっかけとなって、小川町の伝統産業の入り口になることも考えられるし、逆に小川和紙への興味から『ありがとうポスト』にたどりつくことも考えられますよね。そうした結びつきが簡単にできるようになったことは、ITのいいところだと思います。和紙のハガキを送ってみようとなったとき、その和紙がどういった和紙なのか、事情がわかるように情報発信していくことが大事だと思ってます。そのためにももっと自分たちが頑張らないと」

 一方、昔ながらの職人である晴夫さんはどう感じているだろう。

「和紙の良さというのは、私はさわったときの感触だと思う。そうしたものはインターネットでは提供できないものですよね。だからこそ、求められているんでしょうね。インターネットはすごく便利なもの。一方で和紙は、楮の黒皮を一本一本削ったり、丹念にちりとりをしたり、それこそ気が遠くなるほどの手間がかけられているものです。いわば両極にあるものだという感じがする。それがクリック一つで買えてしまうというのは、どうなんだろう、という気持ちが多少はあるよね」

 作り手としては正直な感想だろう。だからこそ、どういった職人さんが、どれだけの手間をかけて作っているかを、送る人、受け取る人に知ってもらえればと願っている。ITサービスを提供することが、わずかでも小川和紙の伝統を支えることにつながるなら、これほど嬉しいことはないと思うのだ。

取材・文●大寺 明  写真●栗栖誠紀

ありがとうポストで用いられている「小川和紙」のスペシャルコンテンツ。
その伝統と技術に深くフォーカスし、紐解いています。

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